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高知地方裁判所 平成8年(わ)71号 判決

裁判所書記官

矢萩幸生

本籍

高知県安芸郡芸西村西分甲二一七〇番地

住居

高知市東石立町八一番地市一〇〇号

土砂資材運搬請負仲介業

岡村成喜

大正一〇年一二月二七日生

右の者に対する法人税法違反幇助被告事件について、当裁判所は、検察官林眞琴出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役六月に処する。

この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、知人の有限会社弘田建材代表取締役弘田博明らが、同社の業務に関し、架空の商品仕入高や外注加工費等を計上してこれを簿外預金等として留保するなどの方法により、その所得の一部を秘匿して同社の法人税をほ脱するにあたり、弘田博明から依頼されて、その情を知りながら、その手段たる架空の外注費の計上に関し、被告人名義を使用することを承諾していたものであるところ、

第一  弘田博明らにおいて、別紙1-1の修正損益計算書記載のとおり、同社の平成四年二月一日から平成五年一月三一日までの事業年度における実際の所得金額が九四五三万六六〇六円であったにもかかわらず、平成五年三月三一日、高知市本町五丁目六番一五号所在の高知税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が一三〇万五一三六円で、これに対する法人税額が三六万五四〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙2-1のほ脱税額計算書記載のとおり、正規の法人税額三四六九万一〇〇〇円と右申告税額との差額三四三二万五六〇〇円の法人税を免れた際、被告人名義で同社あての内容虚偽の領収証を作成するなどし、弘田博明らの右犯行を容易ならしめてこれを幇助し、

第二  弘田博明らにおいて、別紙1-2の修正損益計算書記載のとおり、同社の平成五年二月一日から平成六年一月三一日までの事業年度における実際の所得金額が一億八八七五万七六七〇円であったにもかかわらず、平成六年三月二五日、同税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が一六六万五〇三三円で、これに対する法人税額が四六万六二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙2-2のほ脱税額計算書記載のとおり、正規の法人税額七〇〇二万三八〇〇円と右申告税額との差額六九五五万七六〇〇円の法人税を免れた際、平成五年五月、被告人への支払を仮装して振り出された小切手を裏面に署名して換金したほか、前同様に被告人名義で内容虚偽の領収書を作成するなどし、弘田博明らの右犯行を容易ならしめてこれを幇助し、

第三  弘田博明らにおいて、別紙1-3の修正損益計算書記載のとおり、同社の平成六年二月一日から平成七年一月三一日までの事業年度における実際の所得金額が三億四七〇八万六二七九円であったにもかかわらず、平成七年三月二七日、同税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が二三九万六三一七円で、これに対する法人税額が六七万〇八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙2-3のほ脱税額計算書記載のとおり、正規の法人税額一億二九三九万七二〇〇円と右申告税額との差額一億二八七二万六四〇〇円の法人税を免れた際、平成六年二月、被告人名義の定期預金入金票を作成して、弘田博明らに同社の所得の一部を被告人の預金として入金させて簿外預金として秘匿させ、また、同年八月、被告人への支払を仮装して振り出された小切手を裏面に署名して換金したほか、前同様に被告人名義で内容虚偽の領収書を作成するなどし、弘田博明らの右犯行を容易ならしめてこれを幇助し

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する平成八年三月一〇日付供述調書

一  検察官作成の捜査報告書

一  検察官作成の電話録取書

一  国税査察官作成の平成七年六月二六日付及び平成八年二月二日付各査察官報告書謄本

一  大蔵事務官作成の定期預金調査書謄本

判示第一の事実について

一  弘田博明作成の平成五年三月三一日付確定申告書謄本

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成四年二月一日から平成五年一月三一日までのもの)謄本

判示第二の事実について

一  弘田博明作成の平成六年三月三一日付確定申告書謄本

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成五年二月一日から平成六年一月三一日までのもの)謄本

判示第三の事実について

一  弘田博明作成の平成七年三月三一日付確定申告書謄本

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成六年二月一日から平成七年一月三一日までのもの)謄本

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも平成七年法律第九一号による改正前の刑法六二条一項、法人税法一五九条に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、右各罪は従犯であるからいずれも平成七年法律第九一号による改正前の刑法六三条、六八条三号により法律上の減軽をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、判示各認定のとおり、有限会社弘田建材の代表取締役弘田博明らが三事業年度合計二億三二六〇万円余にも及ぶ多額の法人税をほ脱した際、架空経費計上のため、被告人において、虚偽の領収書を作成するなどして、弘田博明らの脱税の犯行を容易にし幇助したという事案であり、被告人自ら、あるいは、右会社の事務員を介して作成した虚偽の領収書の総額のみでも一〇〇〇万円を超えているもので、その関与の程度は決して軽視できるものではない。そして、被告人は、捜査段階で起訴されるまでの間、事実を否認し虚偽の供述を続け、起訴後になって、ようやく事実関係を供述し罪を認めるに至るなど、正犯者の弘田博明を庇おうとする態度が顕著であるとともに、弘田博明が認めていないなら事実を供述するつもりはなかったなどと述べる法廷での供述からも、真に反省しているのかは疑問であり、自己の罪責に対する自覚も未だ不十分であるというべきであって、その刑事責任も決して軽くない。

しかしながら、被告人が弘田博明らの脱税の犯行に加担したのは、従前から資金を融通してもらうなどして弘田博明に恩義を感じていたためで、また、その関与形態も弘田博明からの依頼による受動的な面があり、被告人には、大がかりな多額の脱税に加担するとの明確な意図認識まではなかったと窺われ、かつ、被告人から弘田博明らに対し見返りや報酬を要求したりしたこともなく、犯行による直接の利得もなかったと認められることのほか、被告人の年齢やその生活状況等の被告人のためにしん酌すべき事情もある。

そこで、これら諸般の事情を合わせ考えた結果、被告人に対し、主文掲記の刑に処し、今回に限り、その刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田隆)

別紙1-1

修正損益計算書

〈省略〉

別紙1-2

修正損益計算書

〈省略〉

別紙1-3

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2-1

ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙2-2

ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙2-3

ほ脱税額計算書

〈省略〉

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